糖鎖結合部位の同定
メディカル・プロテオスコープのプロテオーム受託分析
ヒトタンパク質の3分の1には糖鎖が結合していると言われており(グリコシル化)、とくに膜タンパク質の糖鎖は細胞間の相互作用や細胞認識に重要な役割を果たしています。また、異常な糖鎖構造は腫瘍マーカーの候補としても有用です。当社の分析サービスでは、アセトンを用いた糖ペプチド断片の濃縮技術とグリコシダーゼ処理を組み合わせてN結合型糖鎖の結合位置を同定します。LC-MS/MSデータの計量比較によって結合率の変動を検出することもできます。
Nグリコシル化部位同定の原理
糖ペプチド/タンパク質の精製には、糖鎖に高い親和性をもつ一群のタンパク質であるレクチンが広く使われています。当社では、糖ペプチドがアセトンに溶けにくい性質を利用した、より汎用性の高いペプチド濃縮法を採用しています(Takakura et al., J. Proteomics 2014)。回収した糖ペプチドから酵素でN結合型糖鎖を切り出した後、結合位置に残ったアスパラギン酸残基を同定します(下図)。
Nグリコシル化部位同定の手順
精製タンパク質の分析の場合は糖ペプチドの回収を省くことがあります。
分析の手順
① プロテオーム試料をトリプシンなどの加水分解酵素によってペプチド断片の混合物にします。
② ペプチド溶液に5倍容の冷アセトンを混合し、−25℃で一晩静置します。このとき、非グリコシル化ペプチドの多くが溶解性を保っている一方で、糖鎖の結合したペプチドは不溶化します。
③ 遠心分離後、上清を除き、沈殿を再溶解してからN-glycosidase Fを添加します(脱グリコシル化処理)。
④ 脱グリコシル化処理後のペプチド混合物を酸性水溶液に溶解してLC-MS/MSの試料とします。
⑤ LC-MS/MSデータの配列データベース検索では、糖鎖結合部位を、脱アミド化したアスパラギン残基、すなわちアスパラギン酸残基として同定します(質量差0.984 Da)。下図の反応式をご参照ください。
N-Glycosidase F (PNGase F) の反応様式
分析例
次のような研究に最適です。
・培養細胞や生体組織のNグリコシル化を網羅的に調べる。
・エクソソーム間の膜表在性糖鎖の違いを検出する。
・プルダウン精製したタンパク質のNグリコシル化部位をもれなく同定する。
おもに使用する分析機器と解析ソフトウェア
質量分析計
Q ExactiveTM 四重極-Orbitrap質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
液体クロマトグラフ
Ultimate 3000 RSLCnanoシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
配列データベース検索
Mascot® Server ver. 2.8(マトリックスサイエンス)
LC-MS/MSデータの計量比較解析
Proteome DiscovererTM ver. 3.0(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
おもな納品物
分析報告書: 試料調製からデータ解析までの各工程を詳述します。分析結果への簡単な考察も加えます。
同定結果および計量値: 表計算ファイルにまとめたものを添付します。
分析の成功のために
・試料を準備される前にあらかじめご相談ください。質と量ともに満足いただける分析結果が得られる可能性が高くなります。
・提供試料の総タンパク質量の測定値がご依頼者と当社の間で大きく隔たっている場合は、お打ち合わせの上、提供試料の再調製をお願いすることがあります。
・分析の成否は試料の状態にも依存しますので、最初は少数試料を用いた事前検討をお勧めします。
・糖鎖の構造分析をご希望の方はご相談ください。
2024年1月16日更新
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