プルダウン試料の分析
メディカル・プロテオスコープのプロテオーム受託分析
生体内で発現しているタンパク質は、他の特定のタンパク質や低分子との相互作用を介してその機能を発現しています。相互作用分子をアフィニティー精製するための常法としてプルダウン法が用いられています。通常の実験では、ビーズ担体の表面に、研究対象のタンパク質、抗体あるいは合成低分子化合物を固定してから、担体を細胞抽出液などに懸濁します。固定化した分子(リガンド)に比較的強く結合する細胞由来のタンパク質は、ビーズ担体の単離を経て質量分析によって同定されます。
プルダウン試料のタンパク質同定
ビーズ担体の表面でアフィニティー精製された結合タンパク質を同定するために、おもに2種類の手順が確立しています(下図)。両者は結合タンパク質の量や組成によって使い分けられます。
タンパク質同定の工程
SDS-PAGEで結合分子を分離展開する手順(左)が普及しています。最近では
LC-MS/MSデータの上でペプチド断片の検出強度を比較する方法(右)も実用化
されています。それぞれの利点を生かして両者を使い分けます。
分析の手順
上の図では、もっとも単純な実験系を例に挙げてタンパク質同定に至るまでの工程を示しました。SDS-PAGEでタンパク質を分離展開する手順(図の左側)は、結合タンパク質の種類が比較的少ない場合に有効です。
① リガンドに結合したタンパク質をSDSによって変性・溶出してからSDS-PAGEに供します。
② ゲル上で可視化されたタンパク質バンドを、かみそりなどを用いてゲルごと切り出します。
このあとは、ゲル内プロテアーゼ加水分解、LC-MS/MS、およびペプチドMS/MSデータの配列データベース検索を経てタンパク質を同定します。対照としてリガンドの固定化を省いた試料を同時に分析すれば、ビーズ担体に非特異的に結合したタンパク質を区別することができます。
実験の条件によってはSDSゲル上に結合タンパク質が10種類以上検出されることがあります。また、染色のバックグランドが高くて対象バンドが不明瞭な例も見受けられます。このような場合はLC-MS/MSの分離能を活かした一斉分析の方法を採ります(図の右側)。非標識プロテオミクスの応用です。
① ビーズ担体の懸濁液にプロテアーゼを直接添加して結合タンパク質を加水分解します。
② ペプチド断片の混合物をLC-MS/MS に供して、LC溶出時間と質量/電荷比 (m/z) を両軸とした二次元ペプチドプロファイルを取得します。このとき、MS/MSデータの配列データベース検索によって得られたペプチド同定結果を、二次元プロファイルの各ピークに連結しておきます。
③ 専用の解析ソフトウェアを用いて対照のプロファイルデータと比較し、データ間で検出強度差が観測されたペプチド断片から結合タンパク質を同定します。
LC-MS/MSデータを比較する方法では、多種類のタンパク質を計量的かつ一斉に比較することが可能です。
プルダウン試料の分析例
タンパク質複合体の同定: 上記の方法では、タンパク質複合体としてリガンドに結合した場合でも、複合体を構成する各タンパク質を同定することができます。
翻訳後修飾に依存したタンパク質相互作用の分析:同じタンパク質のリン酸化体と非リン酸化体にそれぞれ結合するタンパク群を比較して、修飾に依存したタンパク質結合を絞り込みます。
競合化合物による結合阻害実験: 対象の薬剤をビーズ担体に固定化します。一定量の競合化合物を添加することによって薬剤とタンパク質の結合特異性などを評価します。計量的な分析が必要な場合は、LC-MS/MSデータを比較する方法が適しています。
おもに使用する分析機器と解析ソフトウェア
質量分析計
Q ExactiveTM 四重極-Orbitrap質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
液体クロマトグラフ
UltiMate 3000 RSLCnanoシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
配列データベース検索
Mascot® Server ver. 2.8(マトリックスサイエンス)
LC-MS/MSデータの計量比較解析
Proteome DiscovererTM ver. 3.0(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
おもな納品物
分析報告書: 試料調製からデータ解析までの各工程を詳述します。分析結果への簡単な考察も加えます。
タンパク質/ペプチドの同定結果および計量値: 表計算ファイルにまとめたものを添付します。
分析の成功のために
・試料を準備される前にあらかじめご相談ください。質と量ともに満足いただける分析結果が得られる可能性が高くなります。
・固定化用の担体として磁性ビーズをお勧めしています。
・事前のご相談の際にはプルダウン精製試料のSDSゲル染色像をお見せください。費用も含めて最適な分析手順を提案いたします。
・タンパク質バンドを同定する際は、ご依頼者自身で分析対象のバンドを切り出すか、あるいは切り出す前のSDSゲルをそのままお送りいただいてもけっこうです。
・LC-MS/MSデータ上での計量比較を選択された場合は、アフィニティー精製済みのビーズ担体をPBSなどの緩衝液に浸した状態でご送付ください。
2024年1月16日更新
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