研究成果の紹介
当社の分析で得られた研究成果を紹介します。
・化合物結合分子のアフィニティ精製 キナーゼ阻害剤の標的タンパク質の同定
・培養細胞の分析から臨床へ 膵臓癌の神経浸潤に関わるバイオマーカー
・臨床試料の分析にも 肝臓癌の多段階進展のマーカー分子Talin-1の同定
・術後化学療法の予後予測マーカー: ミオシンIIaとビメンチン
・漢方薬の効能と量的な相関を示す血漿タンパク質群の同定
化合物結合分子のアフィニティ精製
キナーゼ阻害剤の標的タンパク質の同定
プロテインキナーゼの阻害剤に特異的に結合するタンパク質群を同定しました。同定タンパク質の中には、既知の標的キナーゼのほかに新規の標的候補分子が含まれていました。
Bisindolylmaleimide Ⅷ (BisⅧ) の構造
BisⅧはプロテインキナーゼC (PKC) の強力な阻害剤として知られています。GSK3α/β1、CDK、 Rsk3などのキナーゼに対しても阻害活性があることが報告されています。
磁気ビーズへの固定化
多摩川精機のFG beads®にBisⅧを固定化しました。
SDSゲルからの標的タンパク質の同定
BisⅧ固定化ビーズを用いて、HeLa細胞の抽出液からBisⅧ結合タンパク質をアフィニティ 精製しました。銀染色で検出されたバンドを分析したところ、2種類の標的キナーゼ (GSK3αとGSK3β) が同定されました。
LC-MS/MSデータの計量比較
アフィニティ精製試料をトリプシンで分解し、生じたペプチド断片の混合物をLC-MS/MS に供しました。取得したペプチドの検出強度情報を対照と比較したところ、左記2種類の キナーゼを含む6種類のタンパク質が、有意なBisⅧ結合分子として同定されました。
GSK3αとGSK3βはBisⅧの標的タンパク質としてすでに報告されています。一方、質量分析でイオン検出強度を比較する方法では、一度の分析で合計267種類のタンパク質について計量情報が得られました。さらに、そのうちの6種類は対照と比べて有意に高いことがわかりました。6種類のタンパク質にはバンドの分析結果と同じGSK3αとGSK3βが含まれていましたが、他の4種類は今までに報告がなく、新規標的タンパク質の可能性を示しています。
上記の分析は多摩川精機株式会社と共同で実施しました。
2018年5月7日掲載
培養細胞の分析から臨床へ
膵臓癌の神経浸潤に関わるバイオマーカー
Hibi T et al., Clin. Cancer Res. 2009, 15: 2864-2871.
膵臓癌細胞から樹立した細胞株を、神経浸潤を指標にして高浸潤株と低浸潤株に分類しました。両群のプロテオームを非標識LC-MS/MSで比較したところ、発現量に有意差のみられるタンパク質を多数見つけました。そのなかから、RT-PCRおよびウェスタンブロッティングの結果と相関の高いバイオマーカー候補としてsynuclein γ (遺伝子名SNCG)が得られました(ヒートマップ中の*印)。
Kaplan-Meier法による生存時間解析を行い、synuclein γの発現と生存期間に有意な相関があることを見出しました。
臨床試料の分析にも
肝臓癌の多段階進展のマーカー分子Talin-1の同定
Kanamori H et al., Oncology 2011, 80: 406-415.
LCを二次元化した分析システムを用いて早期癌と周辺非癌部のプロテオームを比較したところ、前者で有意に発現量が高い61種類の蛋白質を同定しました。このうちのひとつである細胞骨格タンパク質Talin-1は、免疫組織化学染色による検証によって予後予測分子として有用であることがわかりました。
術後化学療法の予後予測マーカー: ミオシンIIaとビメンチン
Maeda J et al., British J. Cancer 2008, 98: 596‒603.
原発性肺腺癌の再発転移を予測するマーカータンパク質の探索では、加療前に切除した癌部(n = 24)のプロテオームを分析しました。再発転移が確認された試料群で、他群と比べて有意な増加を示す2種類の候補タンパク質(ミオシンIIaアイソフォームとビメンチン)が同定されました。つづいて各タンパク質対する特異抗体を組織染色に用いてこの探索結果を確認するとともに,別の試料群(n = 90)に対しても同じ染色法で候補タンパク質の量的な有意性を再現することが出来ました。
また、組織染色像の統計解析によって、術後化学療法が不要な予後良好の患者を鑑別できることを示しました。2種類のタンパク質の発現が陰性だと判定された患者の5年生存率が有意に高いことも明らかとなりました。
ミオシンIIaアイソフォームとビメンチンともに、3種類のペプチドの検出強度が試料群の間で有意な強度差を示した。
漢方薬の効能と量的な相関を示す血漿タンパク質群の同定
蒲原、川上、上馬場、荻原、Research Papers of Suzuken Memorial Foundation 2007, 26: 399‒403.
防風通聖散は、肥満症の患者に処方される漢方薬のひとつです。処方後一定期間をおいて血漿を採取し、プロテオームレベルの比較解析を実施しました。取得したLC-MS/MSデータを、体重が大きく減少した患者群と減少幅が小さい群に分け、両群間で発現量が明確に異なるタンパク質をペプチド断片の強度差として示しました。
血漿プロテオームの計量比較